2015年(平成27年)4月11日 【更新:2020年(令和2年)4月28日】

 介護福祉実践とは、たとえ心身と環境における不自由な状況があっても、ご本人が生きる希望を抱き、「わたしらしい」生涯を全うする生き方への自由度を高めるために、その日常的な生活を通して支援するかかわりです。

 介護福祉実践とは、応用に耐え得る基本を一般的な手掛かり(参考)としつつ、一人ひとりとの日常的な生活における個別具体的なかかわりを通して、その尊厳を保持し、ご本意に応じ、ご意向に沿おうとする支援です。

 介護福祉実践とは、ご本人にとって真に大切な生きる(原動)力となる人生の意味や課題と現実の日常的な生活場面や一挙手一投足の在り方の意味合いとの結びつきを豊かに見いだしていこうとするかかわりです。

 介護福祉実践とは、ご本人の願いと祈り、その掛け替えのない人生の証としての思い出を大切にしつつ、新たに創造し続け、共に在り共に生きる人間として、共に人生を体験し、それらを共有していくかかわりです。


 ご本人は、過去と現在、そして未来において一体です。

 そこで、ご本人の人生は、一体として理解していく必要があります。

 ご本人にとっての「生き方」と「生きる意味」にかかわる「自由度」を高めていくためには、ご本人の健康はもとより、共に生きる人の健康も、その基となります。ご本人はもとより、家族や地域社会などへの支援も重要です。

 救急救命を要する時はもとより、疾病がその自由度を妨げるとき、その自由度を回復していくためには医療資源を活用し、一時的に医学的な管理に服して自由度を委ねた入院生活において、検査・投薬・手術など治療を受けていくことも必要になります。

 日常的な生活において、ご本人が自律していくために必要な自由に、その許容範囲を超えて制約が加わり、不自由な状況が生じている時、自由度を高め、そのような状況を解消していくためには介護福祉資源の活用が有効です。

 自律に必要な自由度は、個人によって異なります。

 その自由にも全体像と質があります。

 介護福祉実践は、ご本人の肯定的理解者に徹していくことで、介護福祉の視座から共に在り共に生きる人として、その自由度への制約を回復する支援や、自由度の全体像に基づくダイナミックなコンディションにアプローチし、その活性化を支援して自由度を高めていく実践です。

 それは、回復へのアプローチのみには留まらない実践です。

 介護福祉実践は、国民の不断の努力によって維持され、国が国際協調に努めて保障すべき、平和で自由な社会にあって、一人ひとりのご本人が、その人生の過ごし方の主体となり、人間としての尊厳と個人としての尊厳を保持し、お互いにとっての限りある人生の掛け替えのなさと、その限りない人生の可能性を尊び認め合い、共に幸福な生涯を全うしていくことができるように、一人ひとりのご本人の生き方に関連して、共に生き、そのこころ豊かな暮らしを実現していく支援として、人と社会にアプローチしていく実践です。

 そのためにも、多様な考え方や在り方が理解され、尊重される社会の形成と、一人ひとりがこころ豊かな教養を涵養し、互いの幸せを願い喜び合える人として、こころ清らかに成長し合える自律性を備えた人の養成が必要です。

 介護福祉職たる介護福祉士の養成教育も人とその社会にとって有意義であり重要です。


 なお、日本介護福祉学会の研究倫理指針には、その適用範囲について、「本研究倫理指針は、学会員の行うわが国における介護福祉実践および介護福祉学の向上に寄与することを目的として行われるすべての研究活動を含むものとする。」と規定されています。




2018年(平成30年)5月15日

介護福祉実践の特質

1 ご本人(と家族)の自由度を高める介護福祉実践
ここで言うご本人の自由度とは,本来,世間で当たり前のごとくに享受されている個人的生活及び社会的生活を謳歌するために必要な量的且つ質的な自由の度合いである。介護福祉実践においては,ご本人を支援する目的に伴ってその家族をも支援する。ところで,介護という用語に通じる熟語として,介抱と救護がある。広辞苑第六版と大辞泉によれば,「介抱とは,傷病者などの世話をする,助けて面倒を見る」,といった意味で,「救護とは,困っている人を救い守る,傷病者などを保護し,看護,治療する」,という意味である。この介と護を組み合わせた用語が介護である。この両者の意味に基づく実践という意味からこれを介護実践ととらえたならば,それは,介抱を要する人の世話と救護を要する人の保護をおこなう実践ということになる。「保健師助産師看護師法」には,療養上の世話,という表現で看護師の業務内容の一部が記されている。福祉施設の介護職員は従来,(寮における母親代わりという意味から)寮母,という名称で呼ばれてきた。もっとも,世話と保護という観点からでは,慢性的な疾患があったとしても,まして,暮らしに不自由さこそきたしているものの,普段は医学的管理から自由なご本人が必要とする,その自由の生かし方(医療を通した自由の回復ではなく,暮らしを通した自由の獲得)への支援という観点はとらえ難い。1987年(昭和62年)に「社会福祉及び介護福祉士法」が制定されて誕生することになった介護福祉士は,1994年(平成6年)212日に日本介護福祉士会を設立し,翌年の1995117日に日本介護福祉士会倫理綱領を宣言した。その前文には,「私たち日本介護福祉士会は,一人ひとりのこころ豊かな暮らしを支える介護福祉の専門職として,ここに倫理綱領を定め,自らの専門的知識・技能及び倫理的自覚をもって最善の介護福祉サービスの提供に努めます。」と謳われている。その向きから,外国人技能実習制度に基づく単純労働に従事する単純労働者(manual worker)をも含む介護職員が行う介護を介護実践と称するならば,介護福祉の専門職たる介護福祉士が行う実践は,専門職(professional)としての倫理と能力に基づき理解し判断・行動することのできる介護福祉実践として,意識的にこの両者を使い分けていくべきである。(その向きでは,日本介護福祉士会が設立した日本介護学会も,日本介護福祉士学会へと名称を変更するべきである。)

2 ご本人(と家族)のプライバシーを保つ権利を擁護する介護福祉実践
ここで言うご本人のプライバシーを保つ権利とは,個人としての尊厳を確保するために,他者から覗き見られたり干渉されたりすることなく,ご本人にとって公開する意思のない私生活上の秘密を保つことのできる権利である。もっとも,ご本人にとっては,暮らしと自由な生き方に関する不自由さを克服するために,かかわりを許している支援者に対しては,自らのプライバシーをもさらけ出さなければならない現実に直面している。そういった意味では,ご本人のプライバシー権に例外を設けてその権利を無力化しているのは,日常的にかかわりを許していただいている支援者なのである。そのことをわきまえつつ,プライバシーの侵害者になってしまわないように,ご本人は本来,プライバシーを支援者にさらけ出したくはないこと,ご本人は何のために自らのプライバシーに立ち入らせて下さるのか,ということにこころを致し自らを戒め続けていかなければならない。それができてこそ,ご本人のプライバシー権の擁護者たり得る。

3 ご本人(と家族)の本意に基づき真の意向に沿う介護福祉実践
ここで言うご本人の本意とは,いのちを有しそれゆえに常に(環境と共に)変化し続け,途絶えることなく訪れては過ぎ去っていく一刹那の連続に体験している只今に集約される一貫的でありながらも可変的な自由意思である。ご本人の本意に応じ真の意向に沿おうとしても,それを表面的かつ一面的にしかとらえられない場合は,その範囲内でのご本人の意思表示に依拠することになる。ご本人が決定したからといっても,その場で性急に答えを求められたために 一応の応えとして,本来の答えは留保しているつもりでいることもしばしばあり得る。異なった聴き方をしていたならば答えも変わっていたかも知れない場合もあれば,前提条件を織りなす状況の変化に応じるご本人の意思とともに答えも変化していく場合もあり得る。短絡的にとらえたご本人の意思表示を根拠として構築された支援計画は,ご本人にとっての本意を反映しえない自縛的な計画として,かえってご本人にとって本来,可変的で自由であるはずの真の意向に沿った生き方を阻害してしまいかねない。ましてや,ご本人(と家族)とのかかわりを,支援者を名乗る者が私物化し蹂躙するようなことがあってはならない。
 
4 ご本人(と家族)の生き方を支援する介護福祉実践
ここで言うご本人の生き方とは,ご本人にとって「わたしらしい」良さを大切にしていくことのできる人生の生かし方である。介護福祉実践において,多職種連携・協働していく上で,ご本人ならではの「生き甲斐」につながるご本人の原動力を尊重し支援しようとする介護福祉職としての専門的原動力をもって他の専門職と呼応していく。ご本人への医学的支援を目指したプロセスにおいては,医療職との協働・連携において医療チームの一員として(生活者というよりも)患者としてのご本人の療養生活の維持と生活場面を通した日常的なリハビリテーションにおいて機能することも求められる。もっとも,介護福祉実践では,ご本人の宗教的信念に基づく生き方をも尊重して支援する。また,ご本人なりの夢の世界とのつながりやそれに基づく生き方をも尊重して支援する。その向きからの介護福祉実践の基軸は,他の専門職において,その専門職にかかれば「○○が治る」といった治療へのプロセスそのものとは異なる。その専門職にかかれば「○○が改善する」といった教育・訓練・指導へのプロセスそのものとも異なる。介護福祉職がかかわれば生き方への自由度が高まりご本人にとって「わたしらしい暮らし方がしやすくなる」のである。介護福祉実践の本質は,ご本人にとって「共にいてくれると,わたしの真の意向がとても良く尊重されて生かされ,わたしらしい生き方を大切にしていきやすい」といった,ご本人と共に在る人間としての かかわりそのものにあるのだ。

5 ご本人(と家族)の尊厳を擁護する介護福祉実践
ここで言うご本人の尊厳とは,ご本人の存在意義である。ご本人の存在意義を尊び高める支援が介護福祉実践である。人間としての尊厳と個人としての尊厳を確保することができるということは,「人間らしく」しかも「わたしらしく」生きることができる,ということである。そのために介護福祉実践においては,ご本人が存在している意義の肯定的な理解者に徹していくために自己研鑽し続けると共に自らを戒め続けて強靱な受容力を保持すると共に,より高次元においてご本人と共に在ることのできる人倫と介護福祉職としての倫理を兼ね備え高め続けようとする修養者であることが求められる。このように,介護福祉実践を通してご本人の暮らしと共に在り人生にかかわる介護福祉職は,常にご本人の尊厳を確保し続けていこうとする全人間的権利13)の擁護者である。

6 ご本人(と家族)の生きる意味を尊重する介護福祉実践
 ここで言うご本人の生きる意味とは,ご本人にとっての人生の目的である。本論文では,生きる意味としての生き甲斐の発展系を霊性ととらえている。現実の人間社会に生きつつも時間と空間,物質と精神、そして霊性が一体となっている悉皆を意識して生きる意味をとらえようとするとき,ご本人は,「人間らしく」しかも「わたしらしく」から,さらに「あるがまま」へと,すべてを創造した「不可思議さのもと」からの生命に基づく人生の目的にもこころを致し得る。人知を越えたもとから来たりて生じ,いつしか来たったそのもとを意識し,やがて来たったそのもとへとかえり,改めてそのもとから何らかとなって生じ得るその無限の可能性の一部となっていくのである。介護福祉実践は,人類の共存共栄に向けて,すべての宗教,思想,哲学を尊重すると共に,すべての人生観と世界観をも尊重する。