『web課題5』

のぞみくんの物語


2020年(令和2年)4月29日


 


のぞみくんの物語


 のぞみくんは、5歳になったばかりの男の子です。
 父親の転勤に伴い、家族3人で遠くから引っ越してきて、途中から今の幼稚園に通っています。
 きょうも、お昼寝の時間になりました。
 みんなと一緒に講堂の床に寝そべると、先生が、のぞみくんのところにも回ってきて、ちっちゃいお布団をおなかの上に掛けてくれました。
 けれど、のぞみくんは、周りの園児たちのようには、どうしても寝入ることができません。
 のぞみくんは、隣で 涎(よだれ)を垂(た)らしながら寝入っている子を見ながら、
「どうして みんな こんなにすぐに眠れるんだろう?」
と不思議でたまりませんでした。
 そして、長い鎖に 二つのおもりがぶら下がっている 大きな鳩時計をみつめながら、自分だけの目の前に浮かんでくる星屑(ほしくず)のような輝きを見つめていました。
 そんな ある日、園児全員が、その講堂で、何列かに別れて座らされました。
 けれども、のぞみくんは、断固として座ることを拒否しました。
 講堂には カーペットが敷かれていたのですが、のぞみくんのところからは、それがなかったのです。
 「どうして座らないの?」
と、先生から聞かれたのぞみくんは、
「足が痛くなるから」
と 答えました。
 すると、その後、
「園長先生が『来なさい』って仰(おっしゃ)っているから」
と言われて、白い肌で金髪の園長先生に連れられて、二人だけで二階へ上がりました。
 初めて上がった そこには、幾つもの長いすがあり、その前にある祭壇からは、厳かな雰囲気が漂ってきました。
 その一番後ろの方の長いすの横で、園長先生は、静かな声で、
『誰かが座らなければならない』
と だけ仰いました。
 それからは、のぞみくんは、カーペットが敷かれていない床にも自ら進んで座るようになりました。
 いよいよ、のぞみくん は、みんなと一緒に小学生になりました。
 ある日、下校の途中に 橋のあたりにさしかかると、同級生の男の子二人が すごい勢いで喧嘩(けんか)を始めたのを目(ま)の当たりにしました。
 そこで、のぞみくんは、その中に割って入って、喧嘩を止めさせようとしました。
 すると、折りたたみ傘を持っていた子が、それでたたきかかってきたため、その腕を振り払ったところ、その折りたたみ傘が地面に落ちて、ねじ込み式の持ち手の部分が欠けてしまいました。
 そのおかげで 喧嘩は止みましたが、その持ち主の子から 責め立てられました。
 数日後、のぞみくんのお母さんが、折りたたみ傘の欠けた持ち手の代替え品を持って学校へやってくると、担任の先生に挨拶をしてから、教室の外の廊下のロッカーの名前を確認して、そこに置かれていた折りたたみ傘の持ち手と付け替えていきました。
 のぞみくんが、改めて その持ち主の男の子に
「ごめんね」
と 謝ると、その男の子は、
「替えてもらったからいいよ」
と 言ってくれました。
 付け替えられた持ち手を見た みんなは、
「前のよりも いいのになった!」
と 言っていましたが、のぞみくんは、お母さんに申し訳なく思っていました。
 それから1年ほどして、 のぞみくんは、父親の転勤に伴って、また 遠方へ引っ越して行きました。
 ある日、その2校目の小学校で、体育の授業に出席していたところ、若い男の先生が、
「わたしのする通りにしなさい!」
と 言って、ラジオ体操第一の動作を始めました。
 すると、間もなく先生は、のぞみくんの前に来ると、
「なんで お前だけ先生と同じにしないんだ!」
と、怒鳴りつけました。
 のぞみくんが、
「僕は、先生がやる通りにしてます」
と答えると、先生は、
「みんな こうやってるだろう!」
と、腕で左右の動きが みんなと逆であることを指摘しました。
 それに対して、のぞみくんは、
「先生は、
『わたしと同じにしなさい』
って言ったじゃないですか!」
「僕は、先生が実際に動かした通りに、先生が右を動かせば右を、左を動かせば左を動かしていました」
「だから僕の方が正しくて、みんなの方が間違ってるんです!」
と、主張して譲りませんでした。
 それは、決して先生への反抗心からではなかったのです。
 すると、先生は、困った顔をすると、校庭の遠くの方を見回しました。
 校庭の一角には、他のクラスへ体育の授業をしていた、年配の男の先生がいました。
 若い男の先生は、その先生を見つけるなり、言葉も残さず、急いでそちらの方へ駆け出して行きました。
 そして、しばらく、話し合っていたかと思うと、また駆け足でこちらへ戻って来るなり、
「いいから 言う通りにしろ!」
と、のぞみくんに怒鳴りつけました。
 先生は、対面していると互いの左右が逆になるので、それを あらかじめ考慮して、対面する生徒たちが動かす方向と違和感が生じないように、意識的に生徒たちと同じ方向になるように左右を逆にして動かしていたのです。
 それから、何箇月か経ったある日、ここ最近、誤って学校の窓ガラスを割ってしまっていた のぞみくんが、またボールで遊んでいて窓ガラスを割ってしまいました。
 すると、担任の先生は、
「この授業は受けなくていいから、この時間に、反省文を書きなさい」
と、指示しました。
 のぞみくんは、教室の机に向かって、原稿用紙に、
「僕は、また学校の窓ガラスを割ってしまった」
「僕は何をしても失敗ばかりしている」
「僕はダメだ、僕はダメだ…」
と、書き連ねました。
 すると、放課後、担任の先生から、お母さんに渡しなさい と、手紙を預けられました。
 学校へ呼び出された お母さんは、その作文を見せられて、涙がこぼれ落ちてきました。
 担任の先生は、お母さんへ、
「のぞみくんは、お家ではどうですか?」
「のぞみくんは、干渉されすぎているのかもしれません」
「少し距離を置いて見守っていてあげて下さい」
と 伝えました。
 そんなある日、のぞみくんが、夕方、高台になっている空き地の外側から、空き地に接するように太い幹と枝を伸ばしている大きな木に登って ひとりぼっちで過ごしていると、そこに悲しげな表情を浮かべながらやってきた 一人の女の子が、
『わたしも一緒にそこに登ってもいい?』
と 聞いてきたので、のぞみくんは、意外に思ったものの
「いいよ」
と 応えて木の上に迎えてあげました。
 そして、しばらく一緒に黙ったまま木の上の太い枝別れしている幹のところに 二人並んで過ごしていました。
 すると、そこへ、その女の子の家の両親と のぞみくんのお母さんが一緒にやって来ました。
 のぞみくんが
「僕、何も悪いことしてないよ」
「この子が自分で登ってきたの」
と 言うと、のぞみくんのお母さんは、
『わかってる』
と応えました。
 そして、居場所を探しあてた その女の子の母親が
『もう怒らないから一緒に帰りましょう』
『降りていらっしゃい』
と言うと、その女の子は両親のもとへ降りて行きました。
 その女の子のお母さんは、のぞみくんに
「優しくしてくれてありがとう」
と お礼を言って、その女の子と一緒に帰って行きました。
 みんなの前でほめられた覚えのなかった のぞみくんでしたが、通っていた そろばん塾では、
「のぞみくんは、この級で、一番暗算が良く出来る」
と、みんなの前で塾長から誉められて、なぜ自分が今、この最前列の隅の席に席次が決められているのかを知りました。
 けれども、それも つかの間、のぞみくんは、父親の転勤に伴う引っ越しのために、3校目の小学校へと転校して行きました。
 のぞみくんが転校してくると、その4年生の担任は、クラスのみんなの前で、
「Aくん、花瓶の色を出すのは難しいんだ」
「お母さんに、
『頼まれた絵は もう少しかかるから』
って言っといて」
と 言うと、
「今度、転校生が入ってくるって言うから、どんな子が来るのか、もしかしたら みんなの5段階の5と言う一番いい成績を みんな その子に持って行かれちゃうんじゃないかと心配していたら、何のことはない」
と蔑(さげす)んで 冷ややかに言い捨てて、クラスメートの嘲笑(ちょうしょう)を誘うのでした。
 そして、ある日、下校の途上、自宅近くまで帰ってきたところ、隣の小学校の生徒たちに 路上で取り囲まれた のぞみくんは、一人でその囲みを突破し、泣きながら帰宅すると、お母さんに 制服がほころび、手提げ袋がやぶれてしまったことを詫びました。
 その後、のぞみくんは、父親の転勤に伴う引っ越しで、4校目の小学校へと転校することになりました。
 今まで各地で営業所長を務めてきていたお父さんが、本社へ栄転となったのです。
 ところが、それに反対したお母さんが、
『いなかへ帰って子どもを伸び伸びと育ててあげたい』
と 言い出し、両親で話し合いがもたれました。
そして、お父さんから
『田舎に帰りたいか?』
と聞かれた のぞみくんが
「うん」
と 答えると、何と! お父さんは 辞職して、のぞみくんの将来のために、家族3人で 郷里へと戻ってくれたのでした。
 そして、4校目の小学校となった生まれ故郷の小学校へ転校してみると、そこには、ほっぺたが 林檎(りんご)のように赤くて外連味(けれんみ)のない子たちがいました。
 その5年生のクラスには、中学校から小学校の先生になって来たばかりの年配の男性の先生が、新たに担任として着任してきていました。
 クラス替えがないまま、4年間 担任をしてきて、結婚を機に退職した 女性の先生との交替でした。
 その先生は、芳二郎という名前でした。
 のぞみくんのお母さんから、いままでの いきさつを聴いていた芳二郎先生は、のぞみくんが、そろばんの級を持っていることを知っていたので、そろばんを使う授業では、のぞみくんならではの能力を発揮できる出題と、回答の機会を盛り込んで下さいました。
 また、芳二郎先生は、各自が知っている方言を出し合ってみるなど、のぞみくんが持っている良さを発揮できるような 班別演習なども 授業に取り入れて下さいました。
 芳二郎先生は、クラスのみんなが、のぞみくんの長所を知って受け入れ、仲良く打ち解け合って行けるように配慮してくれていたのです。
 そんなある日、のぞみくんが、小学校の近くの誰もいない神社の境内で、回転遊具に乗って遊んでいたところ、近くの通りを女子高校の生徒数名が、なにやら楽しげに会話をしながら下校してきました。
 すると、突然その中の一人が
『ちょっと待ってて!』
と 言って、急に のぞみくんの方へ駆け寄って来るなり、とても真剣な面持(おもも)ちで、
『わたしも一緒に乗せて!』
と、願い出たのでした。
 のぞみくんは、とても驚いたものの、同時に とてもうれしかったので、
「いいよ!」
と 首を縦に振ると、楽しんでもらおうと 渾身(こんしん)の力を込めて、回転遊具を回し始めました。
 その女子高校生は、数回一緒に回ると、とても ほっとしたような満足げな表情で、にこやかに
『ありがとう!』
と 言うと、通りの歩道で待っていてくれた友だちの方へ、急いで駆け戻っていきました。
のぞみくんは、
「もっと一緒に乗っていてくれれば良かったのに…」
と 物足りなさを感じましたが、
「友だちを待たせていたんだから しょうが無かったんだ」
と自らに言い聞かせました。
 それから、しばらく その女子高校生のことを想っていました。
 小学校に上がってからも、毎年のように 別れが訪れてきていた のぞみくんでしたが、のぞみくん が同じ小学校で5年生から6年生になると、部落別生徒会の選挙で、みんなから会長に推されて、居住地区の部落別生徒会長になりました。
 のぞみくんは、今までに 人気者になることはおろか、ましてや、みんなから推されて代表者に選ばれるような経験などしたことがなかったので、それは、のぞみくんにとって、うれしい と言うよりも、大きな驚きでした。
 いよいよ、のぞみくんが、みんなと一緒に中学生になるときが訪れました。
 のぞみくんは、
「これからは、みんなと同じに、最初から中学生生活を始められるんだから頑張ろう!」
と、こころの中で誓いました。
 そして、中学生生活が始まった ある日、下校時間になって 予期せず 雨が降ってきました。
 傘を用意していなかった のぞみくんは、足早に校舎の昇降口から出て行きました。
 すると、同じクラスの男の子(S.K君)がいたので
「お先に!」
と 言って通り過ぎようとしたところ、
『一緒に帰ろう!』
と、彼は、差す傘に迎え入れてくれました。
 彼は、道すがら、明らかに のぞみくんの方に余分に傘を差してくれていました。
 のぞみくんは、彼の肩が濡れるのを済まなく思って見ていました。
 しばらく行くと、もう一人、傘を差さずに帰っていく同級生(S.Y君)がいました。
 彼は、ためらうことなく、その同級生にも傘を差しだしました。
 そして、のぞみくんが真ん中になり、三人で身を寄せ合って、ゆっくりと国道沿いの歩道を歩いて行きました。
 けれども、雨はさらに強くなってきました。
 彼は先ほどにも増して雨にさらされています。
 家まではまだ遠かったのですが、彼らと のぞみくんが帰りの道を分かつ所にさしかかりました。
 ちょうどその近くに物置小屋があり、そこで雨宿りをすることになりました。
 しばらく話しをしながら過ごしていましたが、一向に雨のやむ気配はありません。
 すると 彼が、
『俺たちはいいから のぞみくん 傘を差して行って』
と 言いました。
 のぞみくんが、
「そんなわけにはいかないよ」
「元々君の傘なんだから、君が差して行ってよ」
と 答えると、彼は、
『どうせもう濡れてるからいいよ』
と 言いました。
 のぞみくんが、
「ごめんね、僕らがいたために濡れさせてしまって」
と 応えると、
『そんなこといいんだよ』
『これだけ降ってれば、傘を差してたって濡れてたよ』
と 言う彼に、
のぞみくんが、
「君たちが差して行った方が二人が助かるから」
と応えると、彼は、
『二人より 一人の方が濡れなくて済むから』
『それに、のぞみくんの方が遠いから』
と 言いました。
 のぞみくんは、彼の気持ちに こころを打たれました。
 そして、
「ごめんね、僕たちにかかわってなかったら、もう家に着いてた頃だよね」
「やっぱり二人で差して行って」
「僕は走って行くから」
「ありがとう、ここまで助かったよ!」
「それじゃ お先に!」
と 言って、
のぞみくんは、雨の中へ駆け出して行きました。
 中学校では、クラス替えも担任が途中で替わることもなく、落ち着いて中学校生活を過ごすことができていた のぞみくんは、2年生の終わり頃には、成績も上位になっていました。
 そして、3年生が卒業する前に、1年生から3年生までの全校生徒によって行われる生徒会長選挙に向けて、クラス内で正副会長候補を推薦する選挙が行われることになりました。
 先ずは、各自がクラスの全員の中から会長に推薦したいと思う人の名前を自由に記入して投票しました。
 その結果、なんと! のぞみくんが、一番多い得票数を得たのでした。
 すると、担任の先生が、
「大事な選挙だから、誰が生徒会長になったらいいか、みんな もう一度よく考えて、もう一度 投票しよう」
と 言って、得票数の多かった上位2名の決戦投票を行わせました。
 その結果、更に 差が開き、のぞみくんが得票数を伸ばして一番多い得票数を得ました。
 これによって、クラスが一つにまとまり、文字通り、のぞみくんは、クラスのみんなが納得して推薦する、自分たちのクラスの生徒会長候補として選出されました。
 そして、各クラスから選出された正副会長候補による、全校生徒の前での、立ち会い演説と応援演説を経て、次期 正副生徒会長選挙が行われました。
 その結果、のぞみくんが、五百数十票という、他の候補者を大きく引き離す 大量得票で生徒会長に選出され、同じクラスから推薦されて副会長となった同級生を含む2名の副会長とともに、3年生の1年間、その任期を務めることになったのでした。
 その執行部には、かつて傘を差しだしてくれた、彼にも文化部長として加わってもらいました。
 彼は、一年かけて熱心に取り組んでいたベルマークの整理を、一切自分の任期中の実績にせず、次期文化部長の実績になるように、そのまますべて託しました。
 それから、のぞみくん は、中学校の生徒会長として、合唱の指揮や、一日郵便局長なども務め、卒業式では、卒業生を代表して答辞も述べました。
 生徒会長となった のぞみくんは、全校集会に いつも参加していないクラスが一クラスだけあることが気がかりになっていたため、離れたところにある その教室の担任の先生へ、
「同じ学校の生徒なんですから、全校集会に参加してもらえませんか」
と お願いしました。
 すると、そのクラスの担任の先生は、残念そうな顔をしながら、
「この子たちだから」
と、教室の中を窓越しに 見遣(みや)りながら 言いました。
 そんなある日、体育の授業時間に間に合うように体育館に集合しきれなかった のぞみくんのクラスの全員に向けて、男性の体育の先生が、
「行ってくるから座ってろ」
と 言って、その場から立ち去ると、しばらくしてから戻ってきました。
 すると、のぞみくんに向かって、
「座ってろと言ったのに 何で座ってないんだ!」
と 声を荒げて言いました。
 のぞみくんは、
「座ってろ」
と言われたので、先生は何か用事でも思い出したのかと思い、いつもの体育の授業の時のように立て膝で座っていたので、
「何でそんなこと 言われるんだろう?」
と、自分の座っている最前列から周りを見渡すと、
みんな正座をしていたので、その時 初めて、先生は、
「正座をしていろ」
と指示したのだと気付きました。
 のぞみくんが謝ろうとすると、その体育の先生は、
「いいんだ」
と 言うなり、体育の授業を始めました。
 そこで、のぞみくんは、わだかまりは ないものと思っていました。
 それは、決して、その体育の先生に反抗的になって、正座をしていなかったわけではなかったのです。
 ところが、卒業式の当日、その体育の先生から、
「君とはいろいろあったけど」
と言われたので、改めて思い返してみれば、あの後の成績通知で、担任の先生から、
「体育の成績が悪いんだけど 心当たりあるか?」
「それにしても悪すぎる」
「入試にも響く」
と、問われたことがあったことを思い出しました。
 けれども、体育の先生を信じていた のぞみくん は、
「まさか、誤解され、わだかまりをもたれていたとは」
と、後味の悪い思いを抱いたのでした。
 その体育の先生は、卒業写真アルバムの担当で、写真を一手に引き受けていたそうですが、のぞみくんたちの卒業と一緒に他校へ異動となり、卒業アルバムの作成は、そのまま放棄されてしまったので、のぞみくんたちには、中学校の卒業アルバムがありません。
 その後、あの女子高校が共学になるということで、今まで女子高校だったその高校へ進学した ある日の朝、のぞみくんが、クラスのみんなと、1時間目の授業の開始を教室で待っていると、担任の先生がやって来て、
「『雨の日に バス停で待っていた時に、この高校の生徒に親切にしてもらった』
と、学校にお礼が入っているので、心当たりのある者は 申し出るように」
と 伝えていきました。
 それから、数日後、今度は全校集会の場で、校長先生が、
「本校の男子生徒に間違いないようだ」
「とても感謝しておられ、
『お礼に渡してほしい』
と、わざわざ筆記用具を持参されたので、名乗り出てほしい」
と、仰いました。
 それは、のぞみくんでした。
 でも、のぞみくんは、名乗り出ませんでした。
 のぞみくんは、尊敬している中学校時代の担任の先生から、
「たとえ、いいことをしても、
『それは わたしが やったんだ』
と 言ったら、それは台無しになってしまう」
「誉められたいからやるんじゃない」
「誉められることを一番の喜びにしてはいけない」
「その行いによって喜んでくれる人がいたら、それが一番の喜びなんだから」
と 言われていたことが、こころの中に残っていたからです。
 のぞみくんは、今、高校生として、将来への夢を思い描き、掛け替えのない青春時代を過ごしています。

 どこからか、のぞみくん に、未来の “のぞみくん“ が語りかけてきました。
 『のぞみ! 高校時代を大切にしてね!』
 『新しいスタート台まで、もうすぐだよ!』
 『これからは、どんなときでも ひとりぼっちなんかじゃないからね!』