『web課題4』

季子さんの物語


2020年(令和2年)4月26日


 

季子さんの物語


 季子さん(68歳)は、広い庭のある一軒家で一人暮らしをしています。
季子さんは、足腰に痛みやしびれが現れるため、立ち歩くことが辛くて、今ではほとんど昼間もベッドで横になって生活をしています。
 そこで、ホームヘルパーの春子さん(48歳)が、家事の援助に訪れてきています。
 季子さんは、ホームヘルパーの春子さんが、しっかりしていて、てきぱきした人なので、家事を任せ、安心してベッドで休んでいられることに感謝しています。
 来週からは、週に1日は、ホームヘルパーステーション期待の新人、夏子さん(18歳)もホームヘルプに訪れてくることになりました。
 それを聞いた季子さんは、
「生徒みたいな若い子に来てもらえるのね!」
「楽しみだわ (^▽^)b」
と 歓声を上げました。
 季子さんの一軒家へ、ホームヘルパーの夏子さんが訪れてきました。
 そして、洗濯に取りかかり、庭に洗濯物を干す前に、季子さんなりの干し方があるのなら、それに沿えるようにしなければ、との思いから、季子さんが横になっているベッドまで行って、どのように干したら良いのかを尋ねました。
 今まで、季子さんは、ホームヘルパーの春子さんには任せっきりだったのですが、
「それじゃ」
と、衣類は裏返して干したり、タオルは竿に掛ける長さを片側だけ長くしたりするなど、詳しく説明し始めました。
 ところが、うまく伝わらず もどかしかったため、季子さんは、
「じゃ、わたしも庭まで行くから!」
と、ベッドから起きて、ホームヘルパーの夏子さんに身体を支えてもらって、車椅子に乗ると、一緒に庭に出て、ホームヘルパーの夏子さんに“付き添って”教えて下さいました。
 手間は掛かりましたが、季子さんは、なんだか嬉しそうでした。
 その翌週、ホームヘルパーの夏子さんが、季子さんのお宅に訪問すると、季子さんは、にっこり笑顔を見せて、
「きょうは、庭から よもぎ摘んできて よもぎ餅 作って!」
と 言いました。
 けれども、ホームヘルパーの夏子さんは、よもぎ餅を食べたことはあるものの、よもぎ餅を作ったこともなければ、そもそも、よもぎを摘んだこともなかったため、
「あのぅ…、よもぎって、どういうのでしたっけ?」
と 聞くので、季子さんは、
「えっ 😱
「じゃ、わたしも庭まで行くから!」
と、車椅子に乗ってホームヘルパーの夏子さんと一緒に庭へ出ました。
 そして、台所にも一緒に“付き添って”ホームヘルパーの夏子さんへ、よもぎ餅の作り方を伝授しました。
 季子さんは、とっても嬉しそうな表情をしていました。
 それから、季子さんは、ホームヘルパーの夏子さんが訪れて来る日は、一緒に“付き添う”ようになりました。
 ホームヘルパーの夏子さんは、季子さんからの教えに感謝し、それに誠実に応じてきているので、ホームヘルパーとして立派に成長しています。
 来週からは、ホームヘルパーの秋子さん(38歳)も、週に1日、季子さんのお宅へホームヘルプに訪れてくることになりました。
 ホームヘルパーの秋子さんは、とてもステキな笑顔と優しい眼差しで、傍(そば)に居てくれるだけでも、ホッと出来る、それは心地の良い人でした。
 ある日、ホームヘルパーの秋子さんが、季子さんの一軒家の居間にあるピアノを見ながら
「季子さんは、ピアノをお弾きになるのですか?」
と 聞いてみました。
 すると、季子さんは、にこっと笑みを浮かべながらしながら、
「上手には弾けないけどね」
と、答えると、以前は、中学校の音楽教諭を務め、合唱部の顧問をしていたことを話して下さいました。
 そこで、ホームヘルパーの秋子さんは、とても嬉しそうに
「わたしの娘も 中学校の合唱部に入っているんですよ!」
「季子さんは、今でも合唱の指揮をなさりますか?」
と、聞きました。
すると、季子さんは、
「えっ!?」
「しないわよ!」
「でも、歌うことが大好きな生徒たちと全国大会へ出場させてもらえたのは いい思い出だわ」
と、懐かしそうに言いました。
 そこで、ホームヘルパーの秋子さんが、
「今でも、中学生の合唱を指揮できる機会があれば、また指揮をしてみたいですか?」
と尋ねると、季子さんは、
「もう引退したから… 」
「もう わたしの出る幕なんてないわよ!」
「身体(からだ)だって こんなだし…」
と答えました。
すると、ホームヘルパーの秋子さんは、
「お差し支えなければ、今お聴きしたことを、桜園中学校合唱部の顧問の先生に、
“お知り合いの方から聴いたお話ということで、伝えてもよろしいでしょうか?」
と伺いました。
 すると、季子さんは、
「えっ!?」
と、一瞬 驚いたような表情を浮かべたものの、冗談を聞いたときのように笑いながら、
「いいわよ (^▽^)」
「その学校が、わたしが全国大会に行ったときの学校よ!」
「もう、40年くらい前だけど」
「今、合唱部の顧問をしてるのは、せっちゃんでしょ」
と 許可して下さいました。
 翌週 訪れてきたホームヘルパーの秋子さんは、お掃除を済ませると、季子さんに、
「実は、わたしは、娘の中学校の合唱部の保護者会の会長をしているのですが…」
「顧問の節子先生が、1か月後の出場を控えたブロックコンクールを前に、急に長期の入院をしなければならなくなってしまい、嘱託員指揮者を探していまして、先週お伺いしたお話しをお伝えすると、
『そうでしたら、どうしても、歌うことが大好きな あの子たちを全国大会へ出場させてあげたいので、あの子たちのために是非お願いしたいです』
とのことでした。」
と お伝えしました。
 すると、季子さんは、心配そうな表情を浮かべると、
「それは大変ね…」
と言った途端、キリッとした表情になると
「それなら、連絡をとってみましょう」
と言って、早速、電話を架(か)けました。
 そして、
「どうしたの?」
「元気出しなさい!」
「わたしでよかったら!」
「そうと決まったら、早く楽譜と歌詞見せて!」
と遣り取りをすると、
「わたし、中学校に行ってこなくちゃ」
と言うなり、福祉タクシーを手配し、車椅子をタクシーのトランクに運び入れてもらい、その日のうちに中学校へ出向いて行きました。
 節子先生は、来週に迫った入院を前に、合唱部員を音楽室に集めると、
「季子先生は、わたしにとって、憧れの先生です。」
「季子先生は、わたしの中学校時代の恩師で、季子先生の指揮で わたしたち合唱部は、この学校から全国大会へ出場できたんです。」
「みんなにも出場してほしい!」
「ブロックコンクールへ向けて 全国大会出場を目指して!」
「みんなで わたしの恩師の 季子先生の下で、一人ひとりが こころを合わせて!」
と、季子先生に全幅の信頼を寄せて、季子先生からご指導していただけることに日々感謝していくように伝えました。
 翌日、合唱部の保護者会長を務めるホームヘルパーの秋子さんは、緊急の合唱部保護者会を開くと、その場で、合唱部顧問の節子先生が、急に長期の入院をすることになったため、その恩師である季子さんが、ブロックコンクールへ向けての嘱託員指揮者を引き受けて下さり、ご指導いただくことになったことを報告しました。
 そして、季子さんは、足腰が辛くて立ち歩くことに不安があるため、中学校での合唱部の練習への送迎と付き添いを、合唱部の保護者によってサポートするためのローテーションを決め、中学校と合唱部保護者会を挙げて全面的に嘱託員指揮者に就任する季子さんを支援していくことになりました。
 そんな中、来週から、週に1日、ホームヘルパーの冬子さん(28歳)も、季子さんのお宅へホームヘルプに訪れることになりました。
 季子さんは、ホームヘルパーの冬子さんが、以前に、介護老人保健施設のデイケアで、理学療法士のおこなうリハビリの補助をしていたこともあったと知り、ホームヘルパーの冬子さんに
「わたし、なんにもつかまらないで、しっかり10分立っていられるようになるかしら?」
と聞きました。
 ホームヘルパーの冬子さんは、
「今はどれくらい立っていられますか?」
と 尋ねました。
 季子さんが、
「5分くらいなら大丈夫だと思うのだけれど…」
と答えると、ホームヘルパーの冬子さんは、
「一度、実際に試して見せていただけますか?」
と 伺いました。
 すると、季子さんは、
「じゃ」
と言うなり、ホームヘルパーの冬子さんに念のため腰のあたりを軽く支えてもらいながら始めました。
 すると、問題なく10分間立っていることが出来ました。
 そこで、季子さんは、支えがなくても10分間立っていられるように、2曲の合唱曲の演奏と、その前後の挨拶をイメージしながら、よろめいたら支えにつかまったり座ったりすることのできる安全な状況で、毎日10分間立ち続けて指揮をする練習をして行くことにしました。
 それと共に、ステージへ歩いて登場・退場できるように、ホームヘルパーの冬子さんに、寝室から台所の椅子まで立って歩いて行く介添えと、台所から寝室まで立って歩いて戻る介添えをお願いし、しっかりと身体を支えてもらっていれば それが可能であることを確かめました。
 そこで、毎週、ホームヘルパーの冬子さんがホームヘルプに訪れてくる日には、介添えしてもらいながら、ステージ上に見立てて、寝室と台所の間を立って歩く練習をすることにしました。
 このようにして、季子さんは、合唱部顧問の節子先生の代役として、中学校の合唱部の嘱託員指揮者の役割を果たすため、合唱部の保護者会の人たちのサポートを受けながら、中学校の部活の指導に通いつつ、
ホームヘルパーの春子さんが訪れてくれる日は、ベッドで安心して休養し、
ホームヘルパーの夏子さんが訪れてくれる日は、まるで孫娘のように大事にして家事を教え、
ホームヘルパーの秋子さんが訪れてくれる日は、心地良い時を過ごしながら、時には合唱曲の伴奏をピアノで弾いたりしながら音楽談義に花を咲かせ、
ホームヘルパーの冬子さんが訪れてくれる日は、寝室と台所の間を歩いて移動できるように、介添えをしてもらう
といった日々を過ごして行きました。
 そして、いよいよ、全国大会への出場権をかけたブロックコンクールの当日を迎えました。
 本番のステージで、季子さんは、合唱部の正副部長に両脇から介添えされながら 合唱部員の先頭に立って歩いて登場すると、全員がそろったところで、会場と審査員に向けて挨拶をし、一人で立ったまま、2曲の合唱指揮を無事に し終えました。
 そして、会場と審査員に向けて挨拶をし、再び、合唱部の正副部長に両脇から介添えされながら、正副部長とステージの袖まで歩いて行き、部員を先に退出させると、ステージの方を振り向き、ステージに向かって一礼をしてから退出して行きました。
 不思議と、会場全体が温かく見守られているような、ゆったりとした雰囲気に包まれた中での一体感のある素晴らしい演奏でした。
 ちなみに、合唱部の部長は、ホームヘルパーの秋子さんの娘、副部長は、何と!ホームヘルパーの夏子さんの妹でした!
 全員で、審査結果の発表に固唾(かたず)を呑(の)んで、耳を澄ませました。
『金賞 桜園中学校 !』
 今度は、全国大会のステージでの演奏へ向けて、更に精進していく日々が始まりました。