『web課題2』

親孝行息子の物語


2020年(令和2年)4月10日


 

親孝行息子の物語


 むかしむかし、あるところに、腰も手も曲がった お婆さんが住んでおりました。
 そのお婆さんの名前は、‘マツヨ’と申しました。
 ‘マツヨさんには、一人息子がいて、二人で暮らしておりました。
 その息子は、村一番の親孝行息子として評判でした。
 ある日、いつものように‘マツヨ’さんの外出に付き添って来た息子は、
「お母さん、どうもお疲れ様でございました」
と、‘マツヨ’さんに労(ねぎら)いの言葉を伝えました。
 すると、‘マツヨ’さんは、うれしそうに、笑顔で、
『ありがとうよ』
と 言いました。
 それから、息子は、
「玄関に腰掛けて一息ついて下さい」
と言って、たらいに 湯を汲み、マツヨ’さんの足を 優しく もみほぐすように洗ってくれました。
 ‘マツヨさんは、気持ちよさそうに、笑顔で、
『ありがとうよ』
と 言いました。
 それから、床の間に上がると、
「お母さん、肩がこったでしょう」
と、優しく肩や背中を なでてくれました。
 ‘マツヨさんは、気持ちよさそうに、笑顔で、
『ありがとうよ』
と言いました。
 そして、外出着からの着替えを、いたわるように手伝いました。
 ‘マツヨさんは、うれしそうに、笑顔で、
『ありがとうよ』
と 言いました。
 それから、息子は、‘マツヨ’さんの好物を‘マツヨ’さんが匙(さじ)で食べやすいように調理して、
「お母さん、どうぞお召し上がり下さい」
と、食卓へ丁寧に配膳してくれました。
 ‘マツヨさんは、とても おいしそうに、笑顔で、
『ありがとうよ』
と 言いました。
 そして、食卓を片付けて、‘マツヨ’さんの寝床を整えると、普段着からの着替えを、いたわるように手伝ってくれました。
 ‘マツヨさんは、うれしそうに、笑顔で、
『ありがとうよ』
と 言いました。
 そして、
「お母さん、どうも一日お疲れ様でございました」
「ゆっくりお休み下さい」
と、優しく いたわって 挨拶をしました。
 すると、‘マツヨ’さんは、うれしそうに、笑顔で、
『ありがとうよ』
『お休み』
と 言いました。
 ある日、‘マツヨ’さんの息子は、風の便りに、国一番の親孝行息子が、山向こうの村にいる ということを聞きつけました。
 そこで、 ‘マツヨ’さんの息子は、
「お母さんに、もっと 親孝行をしたいので、国一番の親孝行息子のところへ行って、しばらく修行をしてきたいと思います。」
「もちろん、お母さんも、おんぶして ご一緒していただきますので、ご安心下さい」
と ‘マツヨ’さんに伝えました。
 ‘マツヨさんは、うれしそうに、笑顔で、
『ありがとうよ』
と 言いました。
 翌日の朝、‘マツヨさんと その息子は、山向こうの村を目指して旅に出ました。
 そして、ようやく辿り着いて、国一番の親孝行息子の家を探しあてると、玄関先から、「ごめん下さい!」
と声をかけました。
 すると、《モ~~~ォ》という 玄関先の納屋から顔を のぞかせた牛の声に続いて、家の中から
『はーい、どなたかのー?』
と返事が返ってきました。
 その家には、一人息子と二人暮らしをしている“イクヨ” という、腰と手が曲がったお婆さんがいて、一人で留守番をしていました。
 ‘マツヨ’さんと その息子は、“イクヨ”さんに挨拶をして、はるばる尋ねてきた訳を伝え、お土産を手渡しました。
 ‘マツヨさんの息子は、“イクヨ”さんの息子の帰宅を待ちながら、
「それにしても 変だなぁ…」
と、思いました。
 ‘マツヨさんの息子は、親孝行をするために、お母さんを 一人きりにしておくことは、 なかったからです。
 夕方になって、“イクヨ”さんの息子が
「おっかー!」
「ただいまー!」
と 言って 帰って来ました。
 “イクヨさんは、
『まー、お疲れじゃったのぅ』
と 言って、ねぎらいながら出迎えてくれました。
 すると、“イクヨ”さんの息子は、‘マツヨ’さんと その息子の挨拶を よそに、玄関に座り込むと、
「おっかー!」
「足!」
と言いました。
 すると、“イクヨ”さんは、たらいにお湯を汲んで来て、
『まー、お疲れじゃったのぅ』
と 言うなり、息子の足を 洗い始めました。
 それから、居間に上がると、息子が、
「おっかー!」
「着替え!」
と 言いました。
 すると、“イクヨ”さんは、息子の普段着を出して来て、
『まー、お疲れじゃったのぅ』
と 言いながら、着替えを手伝ってくれました。
 そして、息子が、
「おっかー!」
「肩こった!」
と 言って うつぶせになると、“イクヨ”さんは、
『まー、お疲れじゃったのぅ』
と言いながら、肩や背中を さすってくれました。
 それから、息子が、
「おっかー!」
「腹減った!」
と 言うと、“イクヨ”さんは、息子の好物を取りそろえた料理を作って来て、
『まー、お疲れじゃったのぅ』
と 言いながら、食卓を整えてくれました。
 そして、息子が、
「おっかー!」
「寝る!」
と 言うと、“イクヨ”さんは、
『まー、お疲れじゃったのぅ』
と 言いながら、寝床を整えるなり、寝間着を出して来て、着替えを手伝ってくれました。
 それから、“イクヨ”さんが、
『きょうも、お疲れじゃったのぅ』
『ゆっくりお休み』
と 言うと、息子は
「おっかー!」
「お休み!」
と 言って、さっさと寝てしまいました。
 ‘マツヨさんと その息子は、日が暮れたので、一晩、“イクヨ”さんの家で泊まらせてもらうことにしました。
 その晩、‘マツヨ’さんの息子は、“イクヨ”さんの息子の高いびきを聞きながら、寝付けない夜を過ごしました。
 ‘マツヨさんの息子は、はるばる母親と連れだって 尋(たず)ねて来たのに、
「あんな息子が 国一番の親孝行息子だなんて、あり得ない!」
と、腹立たしくて、くやしくて、母親に申し訳なくて、寝付けなかったのです。
 夜が明けると、‘マツヨ’さんの息子は、母親をおんぶして 早々に帰宅の途に就こうとしました。
 それでも、‘マツヨ’さんの息子は、どうしても 一つだけ、“イクヨ”さんの息子に尋(たず)ねたいことがあったので、思いとどまって、“イクヨ”さんの息子が起きてくるのを 待つことに しました。
 ‘マツヨさんの息子は、“イクヨ”さんの息子が起きてくると、
「わたしの母も、このとおり 腰も手も曲がっていて、出掛けるときは いつも一緒ですし、外から帰ったら、足も洗って さしあげ、着替えも手伝わせていただきます。」
「そして、肩や背中もさすり、食事の支度もしてさしあげ、寝床の用意もさせていただいています。」
「そこで、村一番の親孝行息子と呼ばれているのですが、風の便りに、この村に 国一番の親孝行息子がいると聞いたので、是非 教えを請(こ)いたいと思い、山の向こうの村から 尋ねてきたのです」
と 打ち明けると、  
「あなたは、正真正銘、国一番の親孝行息子と呼ばれている ご本人に 間違いありませんか?」
と 念を押しました。
 そして、
「それなら、なぜ、腰も手も曲がった母親に、自分の足を洗わせたり、着替えを手伝わせたり、肩や背中をさすらせたり、食事の支度をさせたり、寝床の用意までさせたりした上に、さっさと 母親よりも先に寝てしまうのですか?」
と尋ねました。  
 すると、“イクヨ”さんの息子は、
「そうさせてると、おっかー が、喜ぶからだよ」
と 答えました。
 ‘マツヨさんの息子が、
「えっ 😱!?」
と声を上げて 驚いていると、“イクヨ”さんの息子は、さらに、
「そうさせてるときの おっかー の顔が、とっても 幸せそうなんだよ」
と 言いました。  
 それを聞いて、‘マツヨ’さんの息子が、一層 驚いていると、“イクヨ”さんが、おむすびを二つ 笹の葉にくるんで、‘マツヨ’さんと その息子に持たせてくれるなり、‘マツヨ’さんに、
『わたしは、この村一番の、息子思いの母親と言われているのじゃけれど』
『確か、風の便りに聞いた、 国一番の息子思いの母親っちゅうのが、あなたのことじゃないかと思うんじゃが』
『確かにそうじゃろ?』
『間違いなかろ?』
と 確かめました。
 すると、なんと! それは確かに そうだったのです。
 そこで、
『それなら、聞きたいことがあるのじゃけれど』
と 言うと、“イクヨさんは、マツヨ’さんに、
『ところが、今、息子さんの話を聞いとったら、 息子を大事にしてやっとらんのに、どうして国一番の息子思いの母親と言われているんじゃろうか?』
と、怪訝(けげん)な表情で尋(たず)ねました。
 すると、‘マツヨ’さんは、
『息子に そうさせてやっていると、息子が喜ぶものですから』
と 答えました。
 その答えに、“イクヨ”さんが、
『えっ 😱!?』
と、声を上げて驚いていると、
‘マツヨさんは、更に、続けて、
『そうさせているときの息子の顔が、とっても幸せそうなものですから』
と 言いました。
 それを聞いて、“イクヨ”さんが、一層 驚いていると、やがて四人は、思いついたように 満面の笑顔 (^▽^) を浮かべて、尊敬を込めた眼差(まなざ)しを さしのべ、互いに手を取り合ったり、腕をさすり合ったりしながら、口々に 元気よく、
「ありがとな!」
「ありがとう!」
「ありがとね!」 
「ありがとうございます!」
「おたっしゃでな!」
「お元気で!」
「お元気での!」
「お元気でね!」
と、こころからの親しみを込めて 挨拶を交わし合いました。