『web課題1』

浦島 似太郎の物語


2019年(令和元年)11月7日


 

浦島 似太郎の物語


 むかしむかし、あるところに、
浦島 似太郎(にたろう)という19歳の漁師が住んでおりました。
 似太郎は、一人息子で、両親と一緒に三人で暮らしておりました。
 ある日、似太郎が 漁で獲った魚を売って、さっそうと帰って来た道すがら、
一人の見かけない漁師姿の白髪のお爺(じい)さんと出逢いました。
 お爺さんは、釣り竿(ざお)を杖(つえ)代わりにして、よぼよぼとした足取りで、すれ違いざまに
「お若い方、天寿というのは、人生の苦楽や悲喜こもごもを体験するためにあるのじゃよ」
と、つぶやくように言って行きました。
 すると、浜辺から子どもたちの歓声が聞こえてきました。
 近づいてみると、大きなウミガメが、子どもたちに捕らえられていました。
 似太郎が、子どもたちに、
「かわいそうだから逃がしてあげなさい」
と言うと、その中の一人の子が、
「なんだい!」
「お兄ちゃんだって魚 獲ってるじゃないか!」
と言い返しました。
 似太郎が、
「わたしは、生活のために魚を獲ってるんだよ」
「獲った魚を売って暮らしているんだ」
と答えると、その子は、
「このカメだったら 高く売れるんだよーだ!」
と言い返しました。
 そこで、似太郎が、
「だったら、わたしが買おう」
と 言うと、その子は、
「やったー!」 (^▽^)
と、満面の笑顔で喜びの声を上げました。
 似太郎は、魚の売り上げ代を、そっくり そのまま 子どもたちにやって、ウミガメを買い取ると、大喜びで帰っていく 子どもたちがいなくなるのを見届けて、ウミガメを海へ帰してあげました。
 似太郎は、家に帰ると、 そのことを両親に話しました。
 すると、母親は、
「それは良い功徳を施しましたね」
と、誉めてくれました。
 父親は、
「生活に必要なだけしか漁をしてないから、その分は ひもじくなるけど、みんなで一時我慢しよう」
と 言ってくれました。
 それから、しばらく経った ある日、似太郎は、朝一番に 漁をしに、一人で浜辺へ出ました。
 そして、ふと、
「この人生が極楽だったらいいのになぁ」
「そうだったら、たとえ生活のためとは言え、漁をして 魚を売って生活しなくたって済むのだけれど」
と つぶやきました。
 すると、このあいだ 助けてあげたウミガメよりも、はるかに大きい巨大なウミガメが、沖から近づいてくるのが見えました。
 しかも、その巨大なウミガメは、何と、人間の言葉をしゃべるのでした!
 巨大なウミガメは、驚いている似太郎へ、
「わたしは、このあいだ あなたに助けていただいたウミガメの母親です」
「息子の いのちを救っていただきまして、本当にありがとうございました」
「竜宮城の乙姫様に ご報告したところ、「是非とも竜宮城に ご招待して お礼をしたい」とのことで、お迎えに参りました次第です」
と 申しました。
 それを聞いて 似太郎は、
「わたしは、見ての通り 漁師なので、あなたの息子さんは 助けてあげましたが、たくさんの魚を獲ってきています」
「それを竜宮城の乙姫様に知られたなら、大きな怒りを買うことでしょう」
と 答えました。
 すると巨大なウミガメは、
「マグロ も サケ も、自ら生きるために、海に生きている他の仲間を食べています。このわたしだって、そうして生きています。あなたも、生きて暮らしていくために必要なだけ魚を獲っているですから、わたしたちと同じです。そのことは、竜宮城の乙姫様もよくご存じですから ご心配には及びません」
と 申しました。
 似太郎は、
「それなら安心しました。ただ、伝え聞く竜宮城というのは、海の底にある楽園ということなので、わたしが行くことは不可能です」
と答えました。
 すると、巨大なウミガメは、大きな透明の卵を一つ産みました。その卵は、不思議にも、みるみる空気を吸い込んでふくらみ、宇宙飛行士のヘルメットのようになりました。
そして、巨大なウミガメは、その 宇宙飛行士がかぶるような、透明な卵ヘルメットを、似太郎に差し出すと、
「竜宮城へ着くまでは、わたしの背中に乗ってしっかりつかまり、これをかぶっていて下さい。そうすれば、陸上にいるのと同じで、安心です。竜宮城に着いてからは、あなたのいる所は、 陸上と同じになりますので、ご安心下さい。そこでは、わたしも、海の仲間たちも、みな人間と同じ姿になってあなたを歓待します」
と 申しました。
 似太郎は、
「それなら、竜宮城に行って来られる。竜宮城へ行って乙姫様に お目に掛かりたい。ご招待に応じましょう」
と 答えました。
 巨大なウミガメは、似太郎に透明の卵ヘルメットをかぶらせて背中に乗せると、竜宮城までの道すがら、似太郎の好きな飲食物、好きな音楽、好きな舞踊、好きな演劇、好きな美術、好きな装飾、好きな遊戯、好きな女性のタイプ、などを くまなく聞いて行きました。
 ただし、人生の生き方に繋(つな)がる話題だけは、敢えて取り上げずに 話しを逸(そ)らしました。
 そして、竜宮城に着くと、そこで出逢ったのは、まさに、似太郎の好きな飲食物!好きな音楽!好きな舞踊!好きな演劇!好きな美術!好きな装飾!好きな遊戯!好きなタイプの女性!その中でも 断然一番は 乙姫様でした。
 歓迎レセプションでは、
「竜宮城へようこそ!」
と、乙姫様を始め幾多の美女の一人ひとりから すてきな笑顔で 握手を求められて歓待されました。
 その日以来、毎日、宴会が催され、似太郎にとって、天国に居るような日々が過ぎていきました。
 ただ、乙姫様は、一つだけ、似太郎に内緒にしていることがありました。竜宮城での一日は、陸上の一年だったのです。
 似太郎は、竜宮城に来てから80日が経った日、両親や漁村のことが気になり、陸上の実家に戻ることに決めて、乙姫様へ願い出ました。
 それを聞いた乙姫様は、とても驚いて落胆しました。乙姫様は、似太郎が、もう漁をしなくても済み、獲った魚を売って生計を立てなくても済む。しかも、苦も悲しみもなく、好きな楽しみと喜びに満ちた毎日に、満足してもらえているものと自信を持っていただけに、
「未だ 持て成しが足りなかったのかしら」
と、とても驚いて落胆したのでした。
 しかし、その日は、似太郎のために、竜宮城をあげての、とりわけ盛大な送別レセプションを催して下さいました。
 竜宮城のガラス越しには、ウミガメの家族も総出で登場して、竜宮城内の歌声に合わせて楽しい踊りを披露してくれました。
 そして、翌朝早く、似太郎は、再び、巨大なウミガメの透明な卵のヘルメットをかぶって、その背中に乗り、故郷の浜辺へと戻って行くことになりました。
 ただ、乙姫様は、どうしても、竜宮城での一日は、陸上の一年だったことを、最後まで 似太郎に明かすことができませんでした。
 乙姫様は、似太郎を とても気に入っていたので、いつまでも居てほしかったのです。しかも、それを秘密にしていたことを明かしたならば、似太郎を怒らせてしまうことを自覚していたのです。
 そもそも、竜宮城での一日は、陸上の一年だと いうことを知られたなら、似太郎は、来てもくれなければ、直ぐにでも 帰ってしまうのではないかと危惧(きぐ)していたのです。
 それ故に、似太郎には、陸上の故郷のことを忘れさせるように、予(あらかじ)め巨大ウミガメに尋ねさせておいた、似太郎の好みに関する情報に基づいて 持て成し続け、生涯 竜宮城に留まり続けてくれるものと信じて、極楽な毎日を過ごしてもらっていたのです。
 そのため、帰ることに決めた似太郎に、乙姫様は、
「陸上の故郷へ帰ってから、もしも、生きて行く 上で 途方に暮れてしまうことがあったなら、その時は、この箱を、誰もいないところで、一人だけで開けて下さい。ただし、その時が来るまで、決して 開けてはいけませんよ」
と 言って、固く約束を交わし、巨大ウミガメの甲羅で出来た玉手箱と、お土産に 黒真珠の数珠(じゅず)を 持たせてくれました。
 似太郎は、故郷の浜辺に着くと、早速、自分の家の方角へ歩いて行きました。
 しかし、どういう訳か、我が家は、さっぱり見当たりません。
 そればかりか、漁村の人たちは、みな見たことのない人たちで、誰一人として知っている人はいませんでした。
 そこで、似太郎は、お寺に行って ご住職に、浦島 似太郎の家のことを知らないか、尋ねてみることにしました。
 ご住職は、
「はて?」
と首を傾けるなり、過去帳を持ってくると、しばらく調べていましたが、
「ああ、ありました!」
「浦島 似太郎さんは、今から80年ほど前に、享年20歳で供養されています。その両親が天寿を全うしてから、 家は途絶えています」
と、教えて下さいました。
 それを聞いた似太郎は、唖然(あぜん)としましたが、一回大きく深呼吸をすると、ご住職へ、
「あいにく、持ち合わせがないのですが、この黒真珠の数珠をお供えしますので、その、浦島 似太郎の両親のために お経を あげて供養して下さい」
と 懇願しました。
 ご住職は、その差し出された数珠を見ると、
「おおっ!」
と 驚きの声を上げました。
 そして、お寺の財宝になっている、
巨大ウミガメの甲羅で出来ていて、底が鏡になっている箱を開けると、中に入れてある大粒の黒真珠の数珠と 瓜(うり)二つな その数珠を、その横に並べて供え、本堂でお経 を唱(とな)えて下さいました。
 それから、生きて行くのに途方に暮れた似太郎は、とぼとぼと 浜辺に戻って行きました。
 そして、周りに誰もいないことを確かめると、玉手箱を開けてみました。
 すると、箱の中から白い煙が吹き出しました。
 それを吸った19歳の似太郎は、一気に歳を取り、100歳の白髪のお爺さんになりました。
 何が起こったのかまだ分からないでいる似太郎は、中に何が入っているのだろうかと、煙が出尽くした玉手箱の中を のぞき込むと、空箱の底の鏡に映った、変わり果てた我が身に驚いて、茫然(ぼうぜん)自失し、腰を抜かして、その場にへたり込んでしまいました。
 そして、思い出したように、先ほどのお寺に向かって、釣り竿を杖代わりにして よぼよぼとした足取りで、歩き始めました。
 すると、その途中で、さっそうと歩いてくる 一人の若い漁師と出逢いました。
 似太郎は、すれ違いざまに
「お若い方、天寿というのは、人生の苦楽や悲喜こもごもを体験するためにあるのじゃよ」
と、つぶやくように言って行きました。
 すると、浜辺から、子どもたちの歓声が聞こえてきました…